外資系企業勤務日本人のお悩み

外で講演をさせていただくときに、わたしの自己紹介をする。私は外資系企業の子会社5社に勤めた経験を持ち、”外資を渡り歩いている”と言われてしまう。わたしは、”渡り歩いている”とは言われたくはない。そんなに転職できてすごいなといういい意味とも取れるが、”長く一つの場所で働かない”、”ロイヤルティがない”とも思われてしまう。それは不本意である。できれば、長く一つの会社で働いて、キャリアを登っていきたい。外資系企業勤務の日本人の中で転職が多くなってしまう場合にはいろいろ事情がある。

アメリカ人がみな転職を繰り返すわけではない。P&G、マクドナルド、ケロッグなど、本社はアメリカの田舎の都市にあり、アメリカ人は転職が容易でない。転職するためには、一家で引っ越しをし、家を買い換える必要がある。同じ都市に転職の選択がない限り、難しい。P&Gは”Promote within”という風土があり、長く働いている人を経営陣に昇進させる。よそからいきなり社長を雇ってくることはない。ロイヤルティは高い。一生P&Gで働く人はとても多い。ただ、それは米国本社とか、大きな子会社での話だ。

外資系企業で働く日本人にはいろいろお悩みがある。

まず、子会社なので、規模が小さい。中には何千人もの従業員を持つ外資系企業子会社もあるが、数人、数十人のところもある。社長とかCFOとかで入社した場合、日本では、それ以上異動することも昇進することもない。海外で昇進できる人もいるが、そう多くはない。そもそも海外で働きたくなければ、行き場がない。また、海外では(日本にいてもだが)、日本人以外の同僚との競争にさらされる。インド人、中国人など、アジアのみなさんはとても優秀だ。英語が上手、CPA, MBAでとてもアグレッシブだ。根性も違う。彼らは母国を離れて必ず成功する心構えだ。子供たちを母国以外でいい学校にいれるという大きな目的もあるから、必死でがんばる。

子会社の社長や経営陣は優秀であれば40歳くらいの人で十分だと思われている。重要事項の指示は本国からくる。子会社の社長はあくまでも中間管理職だ。社長が40歳であれば、それ以上の年齢の人たちはたくさんは必要ない。経験が長いことがメリットである業務でない限り、若いお給料の低い人たちで十分だ。

業務の自動化(RPA,デジタルトランスフォーメーション)が進み、人間がする仕事は減り、日本人でなくてもできる仕事は、国外に移されている。日本国内での業務やポジションは減っている。そもそも日本人は、コストが高く英語ができないし、専門能力に欠けるので、欧米企業のとっては魅力的ではない。

外資系企業と日本企業では業務のスペックが違う場合が多い。外資のCFOの仕事は経営企画・経営管理・経理財務のすべてを含む。日本企業の経理は財務会計を主に担当している。外資CFOは、経理財務が得意でなく、スペックが合わないので日本企業には転職できない。

外資系企業は報酬が高いので、日本企業に転職すると著しく報酬が下がることも、転職がしにくい理由になる。日本企業の中には、特別に契約社員対応で外資人材を高給で採用する場合もある。それでもなかなか外資人材は日本企業になじみにくい。あまりにも風土が違うからだ。

外資系企業の子会社では、60歳とか65歳とかまで雇っていただける仕組みはない。評価は厳しく、また、ポジション自体がなくなることもあり、長く働けない場合もある。

外資系企業の子会社で働いている日本人は、60歳までそこで働ける保証がなく、また、日本企業への転職も難しい。早めに将来を考えておく必要があるのだ。

私の場合、45歳で子会社のCFOになり、そのあとは、中小企業診断士の資格をとってMBAを修了し、将来何をしたいかを考え、この春に外資系企業を早々とやめ、日本企業のコンサルティングを始めた。 わたしの周りでも外資系企業出身人材の独立が相次いている。早めに、今後長く続けられる仕事に切り替えている。

私が就職するころは、男女雇用機会均等法はすでにあって、日本企業が女性の総合職採用を始めていた。しかし、まだクリスマスケーキという言葉があったころ。わたしが日本企業に就職していたら、社内結婚をして専業主婦になっていたか、独身で働いていて幹部になっていないか。長く日本の会社で働ける人はうらやましくはあるが、日本の会社に就職していたらよかった、ということはない。

外資系企業で働くこと自体はお勧めである。日本企業よりずっと進んだテクノロジー環境、人事環境で働くことができる。しかし日本を出て昇進することができない限り、いつか定年を待たずにその会社を去ることになる。また別の外資系子会社に移ることになる。それを続けるのが好ましくなければ、早めに準備してほかの道を探ることが肝要だ。

外資系企業のファイナンス人材が日本企業に転職しにくい状況を何とかしたいと考える。少ない実例としては、ファンドが買収した日本企業に、外資系企業ファイナンス人材をCFOまたは経営企画として送り込む例はあり、これは良いことだと考える。日本の大企業に転職することは非常に難しい。

解決策としては、日本企業に経理財務と経営企画を統合したCFO組織の設立が広まっていくことを待つしかないかと思う。外資系出身のプロ経営者が社長になる場合、外資出身CFOを呼ぶことがある。資生堂・カルビーなどの例だ。その場合、外資CFO人材も、日本企業で活躍できるよう、経理・財務・税務などの勉強をしておく必要があるだろう。