FP&Aビジネスパートナーは新製品(または新サービスなど)のプロジェクトチームの一員として,チームの意思決定を支援します。ここでは一般消費財を事例とします。
マーケティング部門では,市場や消費者の動向を日々観察・研究し,研究開発部門と相談しながら,新製品の構想を練る。何度かの消費者テストで商品コンセプト,購入意向等を確認しながら,計画が具体的になってきます。FP&Aビジネスパートナーは構想の段階からクロスファンクショナルチームに加わり、情報を得ています。その商品が,会社の財務にどのような役割を果たすことを期待されているのか,チーム内でイメージを共有します。例えば,利益率は低いがマーケットシェアを稼ぐ商品なのか。ターゲット消費者を絞って高価格で売る商品なのか。
新製品が市場に出て育っていくプロセスを,FP&Aビジネスパートナーは次のような小->中->大の視点を持ってチームに伴走します。
① 小さな視点(商品規格)
- 商品についてある程度の情報が得られるようになったら損益計算をし,売上・利益・原価目標を設定し,それに沿った商品になるようにチームを導く。商品開発部門やマーケティング部門は,高価な品質の高い原材料を使いたいが,そのためには価格を高める必要がある。目標数量が売れる価格と品質はどのあたりか。
- 価格設定は同等の品質を持つ競合製品の価格と比較する必要がある。パック当たりの価格,グラム当たりの価格を比較する。競合製品のPLを推測して,どう戦うのか考える。
- 今想定している原価では,目標利益が出ない場合,チームで原価低減プロジェクトを計画する。FP&Aマネージャーはその取りまとめをし,チームを励まし,結果を出す。
② 中くらいの視点(プロジェクトの価値)
- この新製品プロジェクトに対する設備投資などの大規模投資が必要な場合,キャッシュフローを予測し,その現在価値(NPV)や,IRR,投資回収年数等を計算し,企業価値を生むプロジェクトであるかを評価する。
- この新製品のためにカニバリゼーションを起こす他製品があれば,その売上減少を考慮に入れる。売上減少を少なくする方法をチームと考える。
- 会計・財務・税務・内部統制等,このプロジェクトに関してチェックするべきポイントも考えておく。
- 数値の仮定(Assumption)は何かを管理しておく。仮定が外れたらどのような打ち手をとって目標を達成するのか,チームと議論しておく。
③ 大きな視点(会社全体に対する影響)
この新製品は会社全体にとってどういう役割を果たすのか。会社の中長期戦略、販売戦略、生産戦略への影響は?(大きな視点)
日本企業では新製品の価格設定や原価目標設定は事業部の企画担当者によって行われることが多く,経理財務部門が初期段階から関わることは少ないようです。日本企業のCFOを対象に行った調査では,新製品の価格設定・原価目標設定を経理財務部門が主管すべきだと答えたCFOは20%に過ぎず,実際に主管しているCFOは8%,(他部門が主管し)関与しているCFOは33%でした。同調査で,この機能を主管・関与しているCFO組織はそうでないCFO組織と比べて過去3年に営業利益率が上がっている場合が多いという結果が出ています。価格戦略は企業の売上と利益に直接影響する。欧米企業ではCFO配下のFP&Aが初期段階から関与することによって,売上・利益率を高めることに貢献します。日本企業でも重要な案件の決定にはCFOが関わっていますが、プロジェクトがかなり進んでから相談を受ける形ではないでしょうか。