外資系企業が人を成長させる理由 ~「心地よい」職場環境の仕組みと仕掛け
2014年11月にダイヤモンドオンラインに掲載していただいた記事を再掲します。今でもこう思っているので、読んでいただきたい。
https://diamond.jp/articles/-/61798?page=3
日本を元気にするためにもっと女性に活躍してもらおうという機運が高まっている。今後日本の労働人口が減っていく中で、女性がキャリアと家庭を両立させることは社会課題であると同時に、グローバル化と女性管理職登用の促進を推し進める日本企業にとっても喫緊の課題である。手本は外資系企業の職場環境にある。その仕組みと仕掛けを日本ケロッグ執行役員 財務管理本部長の池側千絵氏に聞いた。
「ダイバーシティ重視は当たり前」
「グローバル化と女性管理職登用の促進を推し進めている日本企業がまず着手すべきことは何ですか」外資系企業で執行役員を務めているため、そういう質問を多く受けます。それに対して私は「人種、性別を問わず、誰もが働きやすい環境を作り出すことです」と答えています。
新卒でP&Gの日本支社(現プロクター・アンド・ギャンブル・ジャパン株式会社)に入社。日本マクドナルドのフランチャイズ部門の財務部長、レノボ・ジャパンのCFOを経て現職。一貫して外資系企業のファイナンス部門で勤務。2児の母。GAISHIKEI LEADERSのサポートメンバーとしても活躍する。
私はこれまで、グローバル外資系企業の日本支社数社でキャリアを積みました。それができたのも、いずれの職場も女性が働きやすい環境だったからです。外資系は厳しい環境だろうという世間のイメージはありますが、外資系企業で働く女性の中には、その環境を上手に利用して、キャリアを積んで責任あるポジションについている人がたくさんいます。
ではなぜ、外資系企業は働きやすいのでしょうか。外資系でキャリアを形成した女性の1人として、その理由を説明したいと思います。
冒頭で述べたように、外資系企業の職場環境は、グローバル化・女性管理職登用の促進を目指す日本企業にとって格好の手本になるはず。なぜなら、先んじて時間をかけてそうした仕組みを構築し、機能させる取り組みを蓄積してきたからです。言い換えれば、それらは日本企業に足りないもの、つまり、日本企業がこれから構築していくべき仕組みと仕掛けなのです。
外資系企業の職場環境が優れているのは、何といっても多様性に満ちていることでしょう。社内公用語は英語、年功序列はなし、男女国籍不問で、どのポジションに誰が就くかは、当人の能力と経験で決められます。私も、上司や部下が外国人だったり、上司が年下だったり、部下が年上だったりといったことを日常的に経験してきました。女性の経営陣と働く機会も多くありました。
私が新入社員のころは、外資系とはいえ上層部は男性ばかりでした。まだ、日本企業の女子総合職採用が始まったばかりで、当時は自分が管理職になることなどは想像もしていませんでした。
職場環境が大きく変わったのは、日本にアジアの統括本部が置かれ、外国人が増えたころです。そのアジア統括本部に異動が決まり、仕事を引き継いだ前任者は、夫と4人の子どもを連れて日本に赴任していたフィリピン人女性でした。彼女は、「私が28歳のころにはもう3人も子どもがいたのよ」と言っていて、それを聞いて驚くと同時に、私も仕事と子育てを両立できるのかな、と思ったものです。私にとっては彼女が最初のロールモデルになりました。
折しも社内でダイバーシティ活動が盛んになり、女性が家庭を持ちながら管理職としてステップアップしていくというキャリア形成に対して、会社が支援する体制が整い始め、私はファイナンス代表としてダイバーシティ促進活動に参画することになりました。そこでダイバーシティの定義や背景などを調べ、じっくり考える機会を得たことは、その後の私自身のキャリアを形成していく上で大変大きな収穫でした。
当時アジアの各国のファイナンス部門の男女比を調べると、日本と韓国を除く他の国は6割以上が女性で、男性ばかりが上層部にいる日本が異例であるという事実が判明しました。
今では、ダイバーシティを進めると業績がよくなった、多様な考えがある方がよい結論を導き出せるといった声をよく聞くようになりました。この経営課題について当時私なりに考え、行き着いたのは、「人口の半分は女性で、男女の能力は同じなのだから、女性の能力を使わなければ社会にとって大きな損」というシンプルな結論です。せっかく会社が、女性管理職を増やそうと言ってくれているのだから、いろいろ理由を考える前に流れに乗ってしまえばいいのです。結果として、会社のビジネスに貢献すればそれでいいわけですから。
「20~30代で管理職になって、自分の裁量で仕事ができるようになる」
次に挙げたいのは、人材育成のスピードが早いことです。早ければ30代前半に事業部長や事業部のファイナンス責任者になり、権限を与えられます。この時点で、日本企業と20年ほどの差が出るかと思います。それができるのも、職種別採用をした上で、新入社員を1~2年でジョブローテーションしてさまざまな業務を経験させ、必要な研修を受けさせるシステムが整っているからです。そして、能力があり、成果を出せれば、入社年度に関係なく昇進させるのです。
管理職になると自分の裁量で仕事ができる部分が増えるので、仕事と家庭を両立しやすくなります。仕事の優先順位付けや、会議の設定にしても、ある程度自分の都合を考慮に入れて進めることができます。例えば、保育園、小学校の行事や保護者会、子どもの検診などは平日の昼間に行われることが多いですが、こうした私事をこなしつつ業務で成果を出すことがやりやすくなります。
外国人は男女問わず休みはしっかりとって家族と旅行に出かけ、男性であっても子どもの送り迎えや学校行事などで会社を休んだり業務中に抜けたりすることがよくあります。そうした彼らの“常識”に、私たち日本人は最初は驚いたものですが、慣れてくれば計画的に業務を進めることができますし支障が出ることはまずありません。むしろその方が、当事者にとっても周囲にとってもよほど快適です。現在はITが発達し、パソコンを家に持ち帰って仕掛りの業務をこなしたり、スマートフォンでメールの返信ができたり、家から電話で会議にはいったりと、会社にいなければできないことはないくらいです。
日本企業では管理職になるのを躊躇する優秀な女性が多いと聞きます。管理職になると責任は重くなりますが、必ずしも長時間労働になるということではないはずです。逆に、勤務時間外はオフィスにいないようにして、同僚たちが帰りやすい環境を作ることが重要です。
そこで私がおすすめしたいのは、ワーク・ライフのバランスを取るというよりは、ワーク・ライフ・ブレンディング(混ぜてしまう)という方法です。スケジュールが立て込んで調整が難しい時は、ぎりぎりまで仕事と家庭の用事を両方こなす方法はないかを考えます。どちらかの予定が直前にキャンセルやリスケになることも多く、結局どちらも出席できるようになることも多くあります。ライフというのは、家事、育児だけでなく、自分自身の勉強、趣味、交流を含みます。私が初めての転職をした時、次の会社に移るまでの期間に思ったのは、「会社を辞めても、自分に残るものを大切にしないといけない」ということです。
「キャリアプランニングを常に考える環境がある」
外資は終身雇用でも年功序列でもないので、日々自分の今までのキャリアを棚卸して確認し、将来の行きたい方向とマッチしているのか、何を補わないといけないかを考えなければなりません。会社の期待と自分の期待がマッチしない場合は、別の会社・職場に移ることになることになります。したがって、どこでも通用する・ポータブルな能力を身に付ける必要があります。日々そのような環境にいることにより、女性がキャリアと家庭を両立する方法を考えていきやすい環境だと思います。
外資では全世界的に評価方法が統一されており、我々は、ほかの国の同レベルの人たちと比較されて評価されます。ファイナンス部門でほかの国の人たちは、入社した時から英語が話せてMBAやCPAを持っているのが一般的です。日本人にそういう例は少ないので、実務をしつつ独学や会社の研修で専門分野の研鑚を積む必要があります。私も文学部出身で専門知識がありませんでしたので、のちに米国公認会計士の資格を取得するなどしました。
職場では、残念なことに、英語が話せるようになり専門スキルを有し、業務で成果を出せる人材を育てても、彼ら彼女らはさらなるステップアップを目指して転職することがあります。会社は常に緊張感を持って、そのような優秀な人材が長くいてくれる職場環境を維持しなければなりません。あるいは、離職者が出た場合は同等かそれ以上の能力を持つ人材が来てくれるような魅力的な職場にしなければなりません。それは、仕事を通じて成長を実感できる職場でしょう。いずれにしても、社員の能力を向上させることが、職場環境の改善につながるのです。
日本企業に女性管理職が少ない理由の一つに、人材が流動的でない点が挙げられています。新卒で入った大量の日本人男性がほぼ誰も欠けることなく定年を迎えるのであれば、女性や外国人がそこに入り込む余地は少ないででしょう。
外資では、ローテーションのスピードが速く、2~3年で上司が異動したり転職したりするので、人材を入れ替える機会が多くなります。その際、女性の候補者を積極的に採用していけば、女性管理職の数が増えます。男性もそれに負けず努力するでしょうから、組織はおのずと活性化されます。外国人の幹部登用を進めることもできるでしょう。
女性が会社を辞める理由に、結婚、出産、育児などが挙げられますが、よくよく本人に聞いてみると、実はそれが本当の理由ではないことが多いと思います。彼女たちは、仕事の達成感を感じられず、また将来の展望や職場環境に不満があって辞めるのです。本当に魅力的な職場と職務であれば、辞めない女性(優秀な人材)も実はたくさんいるのです。
「管理部門も成果主義。新しい意見は尊重される」
外資系のファイナンス部門(CFO組織)の仕事は、日本企業でいう経営企画と経理財務を合わせたようなものです。日々の会計、支払、税務などの業務を効率よく正確にこなし、それを基盤として利益・資金管理をして、経営陣からの信頼を獲得した上に、数字の観点から(時にはそれも超えて)経営アドバイスをします。
社長も営業もCFOも目的は同じ、企業価値を向上させること、そのために、売上、利益目標の達成をすることです。外資系企業の利益目標は高く、その実現には、我々ファイナンス人材が事業に精通していて、適切なアドバイスをすることが不可欠です。ですから、マーケティングや営業だけでなく、ファイナンス部門の人材も成果主義で評価されることが多くなります。
長く会社にいて周りの人を知っていることは、助けにはなりますが、成果を出す絶対的条件ではありません。中途入社の人、外国人、女性も、過去を知らないからこそ、違う視点を持っているからこその気づきがあり、それを活かすことによって、成果を出すことができるのです。
外資系企業で働いてきた我々が、もっと日本企業の経営陣と話す機会を作り、グローバル化、女性管理職登用の促進ができる職場環境づくりのヒントをお伝えできればと思います。