米国企業のFP&Aのキャリアパスの1つの例として、P&G社の現社長、ジョン・モーラー氏(Jon R. Moeller)の経歴を見ていきましょう(P&G社のウェブサイトから引用)。

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ジョンはコーネル大学のMBAを修了したのちに1988年にP&Gのファイナンス部門に入社しました。まずは食品の原価を分析するコストアナリストとして配属されました。その後,1-2年おきに異動し,食品工場の経理,食品・飲料事業部の予算管理や財務分析の担当者として,まずは小さいブランドを担当し,それから食品カテゴリー全体,事業部全体と徐々に責任範囲を広げ,昇進していきました。

その後,1996年に米国を出て,当時P&Gが進出していた発展途上の中国で洗濯・パーソナルケア事業のファイナンスリーダーを務めました。その後米国に帰国して,グローバル事業部門のファイナンストップ,コーポレート部門の経営管理役員,財務役員を歴任して2009年に45歳でCFOになりました。


2019年にはVice Chairman, COO/CFOに任命され、 CFO組織の他に,戦略,IR, IT, GBS(シェアードサービス部門), 営業,マーケティング,サプライチェーンを傘下に持ち,複数の地域の利益責任も負いました。


ジョンはCFOを12年以上つとめ、Finance & Accounting, Tax, Treasury, Corporate Strategy, Business Development and Investor Relations functionsを率いた。また、Global Duracell, Salon Professional, Retail Hair Color, Prestige Fragrances, Retail Hair Color事業について、これらの事業を売却するまでの数年間リードしました。
Marck KGaA買収や、コーヒー、スナック、医薬品、電池、高級ビューティーケア事業の売却などもリードしました。

このように、ジョンはCFO部門に属したまま,さまざまな事業部付のFP&A職を経験し,事業部門のビジネスパートナーとしてのキャリアを積み,CFOになったのち,COOとして職務の幅を広げています。その後2021年11月付でPresident and Chief Executive Officerに任命されています。

ジョンはP&Gでは筆者の少し先輩になります。1990年代に会議で一緒になったこともありますが、そのころから将来はCFOになると言われていた方です。このように、P&Gのファイナンス部門においては、MBAかCPAの方が入社し、主にFP&Aの仕事に従事し、米国内外の事業部門を支援するファイナンスリーダーとして活躍します。CFOになる方は、キャリアの仕上げとして、本社の経営管理本部で中長期経営計画や単年度の予算管理などのとりまとめを担当し、最後に財務責任者に就いてからCFOになるというキャリアパスでした。ジョンは経理部門は経験していません。経理は財務会計の専門職であり、かならずしもCFOになる方が通るべきキャリアではないのです。

P&Gはマーケティング部門が強いことで有名であり、以前はマーケティング部門出身者の方が社長になることが通例でした。いよいよFP&A,CFO出身者が社長になり、誇らしいことです。

ジョン・モーラー氏の後任としてP&G社のCFOになっておられるアンドレ・シュルテン氏の経歴も見てみましょう。1996年に入社してドイツの生理用ナプキンの工場のコストアナリストとしてキャリアを開始しています。その後、サプライチェーンファイナンス、ファミリーケア事業部門の利益予測、財務分析担当、ジレットとの統合担当部長を経て、米国に異動してベビーケアのファイナンスリーダー、西ヨーロッパのCFO、グローバルベビーケア、フェミニンケアのファイナンストップなどを経て2021年にCFOになっています。この方は経営管理も財務も経理も経験していない、全くのFP&Aキャリアを歩んだようです。P&G社において、米国人でない方がCFOになることは初めてだと思います。