FP&Aが二人の上司の間で板挟みになるときにどうするか
FP&A(Financial Planning & Analysis)は、CFOと、事業部門の両方にレポートラインを持ちます。どちらが実線でどちらが点線かは会社によって違います。私がパソコンの会社に勤めていて子会社のCFOをしていたときは、本社CFOへのレポートラインが実線で、日本子会社の社長へのレポートラインは点線でした。また、わたしが食品加工会社に勤めていたときは、反対に日本子会社の社長へのレポートラインが実線でCFOへのレポートラインが点線でした。私の解釈では、事業の戦略意思決定が本社主体で行われるのか、子会社にかなりの裁量があるのかによって、違いが出るのだと思います。例えば、パソコンは世界統一の商品を中国で製造しているので、本社の意向が強い。食品加工は、各国の消費者の趣向に合った商品を現地で製造しているので、子会社の意向が尊重される。
いずれの場合も、職種別採用なので、キャリアパス的にはCFO組織に属することは変わりません。
二人の上司にレポートするデュアルレポートラインは、欧米企業のマトリックス組織ではよくあることです。一方、日本企業では、経理の人であっても、本社から事業会社に異動したら、事業会社にレポートすることになり、本社経理へのレポートラインは切られてしまうことが多いようです。
どちらのレポートラインが主であろうと、普段の仕事で大事なのは、自分が属する子会社・事業部門の長と良い関係を保つことです。日本子会社のCFOをしているのならば、日本子会社の社長に信頼してもらうことがまず一番です。そのためには、社長が主催する経営会議を運営し、事業をよく理解し、会計の数字に関わらない分野であっても会議に参加し、レポートを読み、わからなければ質問をして仲間に入れてもらうことが大変重要になります。ここの時間を惜しんではいけません。
子会社・事業部門とのつながりは物理的であるべきもの。近くにいて事業に関わって常に話をしていなければなりません。
一方、CFOの上司とのつながりはもっと精神的なものです。お互いに会計・ファイナンスのプロフェッショナルとして認めあいながら、経営者・事業責任者の支援をする楽しさ・難しさを理解しているものとして、助け合います。上司が部下を助けるだけではなく、部下が上司を助ける場面も多々あります。こちらの関係は、毎日会議で話をしている必要はありません。時々重要なことを伝える、困ったときに話あうという関係でかまいません。
二人の上司の意見が食い違っていたらFP&Aはどうするか。これは、たびたび起こることであり、対処が難しいことです。例えば、支援する事業部門が希望している投資案件について、本社の社長・CFOが承認してくれない場合。本社の社長・CFOが依頼してくる売上・利益目標を事業部門の社長が受け入れない場合。両方にレポートするFP&Aは板挟みになって苦しみます。しかし、だからこそ、FP&Aが活躍できる場面があるのです。
まずは、自分は何が会社にとってよいことか、事業部門にとってよいことか、データをもって考えます。自分の意見が定まらなければ、二人の上司をうまく説得することはできません。一人で考えるのが難しければ、同じFP&A部門の同僚や、別の事業部門を支援するFP&Aに相談するのもいいでしょう。
自分の意見をまとめてから、同じ意見を持つ方の上司と話すのが良いと思います。たとえば、事業部門が希望している投資が会社のためにもよいと思うのであれば、事業部門の社長と話してしっかりデータと理論を固めてから、本社のCFOを説得しに行きましょう。反対に、本社のCFOの意見が正しいと思うのであれば、その旨CFOと話して、しっかりデータと理論を固めてから、事業部門長と話をしに行きましょう。
最後は会社の経営者・社長に決めていただくことになるかもしれません。決まったら納得してその決定に従ることです。
FP&Aの得意とするところは、会計とファイナンスのプロフェッショナルとして、客観的に全社視点で事業の意思決定の質を高めることができることです。事業部に寄り添いながら、入り込みすぎない。とても難易度の高いソフトスキルが求められるやりがいのある仕事です。