日本企業が投資案件の評価にNPVを使わないのはなぜでしょうか
NPVを使っている日本企業は多くない
日本企業の経営管理・管理会計コンサルティングをするにあたって、事業投資・設備投資の評価・承認にどのような手法を使っているかを見せていただく機会があります。日本企業はNPV(賞味現在価値)を使っていないことが多い。。。確かにそのようです。実際はNPVを使っている会社が30%程度ということです。
欧米企業では投資評価にNPVを使うのが普通
私が勤めてきた欧米企業ではNPV、IRR, 投資回収年数を併用していました。私が入社した当時のP&Gで、シャンプーの新商品の導入提案書に添付するFinancial Analysisを担当しましたが、そのころは莫大な宣伝広告費が2-3年で回収できることを確認する程度でした。その後また洗剤事業部のファイナンス部門に戻った時には、NPV・IRR計算をしていました。当時、タブレット型の洗剤を新製品として出すプロジェクトの財務承認を担当していました。ヨーロッパで製造して輸入するもので、何十億円もの設備投資が必要なため、それを回収してNPVが一定金額以上になることを検証する必要があり、NPV計算をしていました。
日本マクドナルドで店舗開発部門をサポートするファイナンスを担当していたこともありましたが、きちんと店舗への設備投資金額についてNPV/IRR計算をして承認基準に達することを確認していました。
NPVは現在のところ、投資評価について意義のある指標と言われている。
NPVは、正味現在価値のことで、そのプロジェクトの将来キャッシュフローを、現在の価値に置きなおして(Discountする)、プロジェクトとしてプラスなのかマイナスなのか、いくらなのかを数値で判断できるものです。もちろんマイナスなら、会社の価値を下げる、やらない方がよいプロジェクトということです。たとえプラスであっても、小さい金額のプラスであれば、労力やリスクを考えると、やらない方がよいという判断になります。MBAや管理会計の教科書を見ても、現在のところ、最も意義のある指標と言われています。
IRR(Internal Rate of Return) は、%で結果が出て、これがその会社の資本コスト(例えば10%)よりも大きければよし、小さければやるべきではない、という指標です。資本コストは、会社に投資をしてくれている株主が、期待しているリターンのことで、これを上回らないプロジェクトはやるべきではないということです。
なぜ日本企業ではNPVを使われていないのか
日本企業では、NPV/IRRを使っている会社の割合が低く(2010年の調査で34%)、私が最近見せていただいた会社でも、投資回収年数を指標にしていました。投資回収が8年かかるプロジェクトを承認していました。8年かかることがよいのか悪いのか?承認する経営陣は「前も8年で承認しているので、それでよいのだろう」と思って承認していました。これは望ましい状態ではありません。このような状態だから日本企業は利益率が低いのでは?投資に対する甘い承認は、ゆくゆくは利益率の低下につながります。投資は当初はCapital Spendingだが、資産化されて、減価償却費として、損益に影響してきました。一度買った資産は償却して損に落としていくしかないのです。
日本企業はなぜ投資可否判断にNPVを使わないのでしょうか?ある研究論文を見ていると、投資回収年数を使っているが、そこに時間の価値を入れているのでよし、というものがありました(新日鉄のケース)。NPVを使うようにできないのでしょうか?
これは、一般的な日本人の財務リテラシーの低さに起因するのではないかと考えています。NPV/IRR、キャッシュフロー、時間の価値、といった概念は、日本では高校までに学校で習いません。これらの概念は本来、個人の資産運用でも必要な知識ですが、それも習わないし実践することもありません。日本企業では、大学・大学院で会計・経営を勉強した人が少ないですし、そのような知識を求められてもおりません。企業内でそこそこ仕事ができるためは、せいぜい目標売上・利益を達成するために必要な損益の知識くらいは必要なのですが、財務リテラシーまでは及ばないことが多いのでしょう。
日本企業でもNPVをつかっていただきたい
優秀な日本人がたくさんいる日本の会社なのに、財務リテラシーが足りないのはもったいないと思います。ぜひ機会をいただき、投資案件評価にNPVを導入するお手伝いをさせていただきたい。
日本企業が投資判断にNPVを使っていないことでなにが問題なのでしょうか?おそらく実際に正しくNPVを使って計算してみたら、やってはいけないプロジェクトをたくさんやってしまっているのではないかと危惧します。それが、欧米企業と比べて利益率が低い原因になっているのではないでしょうか?この点を研究テーマに加えてみたいと思います。