「経理財務部員の事業部配置で業績向上を!」 (企業会計2018年10月号投稿済み)
欧米企業のCFOが率いるファイナンス部門と、従来型の日本企業の経理財務部門には機能の違いがある。欧米企業の特徴のひとつは、ファイナンス部員が各事業部、子会社、部門に配置され、クロス・ファンクショナル・チームの一員として事業の財務判断に関わることである。そのファイナンス部員は、事業部長・部門長と、本部のCFOの両方にレポートラインを持ち、財務判断については、CFOが最終決定を行う権限を持つ。
会社の利益は、各事業部が生み出す利益を合算したものである。各事業部の利益は、ひとつひとつの商品、サービス、店舗などの利益の積み重ねである。ファイナンス部門が各事業部の日々の財務判断に関与することによって、欧米企業では利益の拡大に貢献している。日本企業にこの仕組みを取り入れて、利益・利益率を向上できないか。
欧米企業でのファイナンス組織の進化
筆者は新卒で米国に本社があるP&G(プロクター・アンド・ギャンブル)社の日本子会社のファイナンス部門に入社した。そこで、日本子会社本部、事業部門、生産部門、アジアHQなどで経営管理や投資分析などさまざまな部署を2-3年おきに異動して、後に今のような外資系子会社のCFOになるための経験を積むことができた。
筆者が入社したころは、まだファイナンス組織は一つの部屋に集まっていた。その後ファイナンスの人数が増やされ、洗剤、ビューティーケア、ヘルスケア、紙おむつなどの製品事業部門のそれぞれのフロアに配置されるようになり、工場にも、経理に加えて原価や投資の管理をするファイナンス部員が配置されるようになった。
各事業部に配置されたファイナンス部員はクロス・ファンクショナル・チームの一員として、事業部長、マーケティング、営業、研究開発、サプライチェーンなどの各部と連携しながら、中長期の事業計画、単年度の予算管理、新製品投入、製品改良、マーケティング・プロモーション活動における投資判断を担う。本部のCFOにもレポートしているので、常に、会社全体のことも考えながら、事業部をサポートしていく。時には事業部長とCFOの板ばさみになることもあるので、ストレスがかかる業務でもある。
P&Gのマーケティング部門では、入社数年目のブランドマネージャーが損益責任を持ち、30代で事業部の責任者となる。ファイナンス部員は、彼らの横で、ビジネスパートナーとしてブランド・事業の売上と利益の成長をサポートする。事業部長・ブランドマネージャーたちは、各ブランドの売上と利益を目標どおり成長させていくことで評価されるため、そのために数字を見える化してアドバイスをすることがファイナンス部員の仕事になる。事業全体の利益向上に貢献しない商品については改善策を練り、時には売上を失ってもやめる判断も行う。売上と利益のどちらが重要か。全社と事業、長中期・短期のバランスを見ながら判断していく。
P&Gは職種別採用で、ファイナンス部門の他の国の新入社員はMBAかCPAが多い。日本では会計を学んだこともない新卒社員がいきなり事業部に配置されるが、仕事をしながら会計を学び、追いついていく。私自身もそのようなキャリアを進んだが、CFOになるには管理会計の知識と経験ばかりでは不足なので、経理・財務・税務の部署も経験し、会社が推奨していた米国公認会計士の資格もとり、財務会計・管理会計・ビジネスがわかるように努めた。
日本企業ではどのようにすればよいか
外部セミナー等で日本企業のCFOの方からお話しを伺う機会があり、そのたびに、事業部にファイナンス(経理財務)の担当者を配置することをお勧めしているが、実現させるのは難しいようである。たとえば、「優秀な経理財務部員を事業部に送ると帰って来てくれない」とのことだ。この場合、その部員はあくまでもファイナンス所属として事業部にローテーションの一環として配置し、そのあとはまた別の事業部や、営業付き・研究開発付き担当となって、また本部の経理に戻るというようなキャリアパスがおすすめである。将来のCFO人材の育て方として理想的ではないだろうか。なかには、事業部の仕事が面白くなってマーケティング・営業などにキャリアチェンジをしてしまう優秀な人材もいるが、それもそれで会社にとってはよいことである。また、事業部の利益管理にCFOが口を出そうとすると、「儲かっているからいいじゃないか」と言われるというケースがあったが、儲かっているならばさらに利益額・利益率を向上させるにはどうすればよいのか、ファイナンスが口を出す場面はいくらでもあるのではないか。
すでに事業部で、数字が得意な人が利益管理・価格や原価管理の仕事をしている場合もあるが、その場合はその人を席は同じままで、籍だけファイナンス部に異動して、適切な経理財務のスキルを身につけてもらうこともできる。ファイナンス部門としても、事業にくわしい人に参加してもらって助かる。海外で買収した子会社のCFOも日本本社のCFOにレポートして、グローバル・ファイナンス組織と部員のキャリア育成ができるとよい。
事業部ファイナンスがビジネスパートナーとしてどう貢献するか
さて、それでは具体的に、事業部で何をどうサポートすれば、業績向上に貢献できるのか。業種によって対象は違うが、どのブランドのどの商品が、どのサービスが、どの店舗が、どの販路がいくら利益・損失を出しているのか、見える化するところから始まる。目標利益を設定し、それに到達するためには何をすべきなのか。費用対効果の悪いものをやめて、もっと優先順位の高いものにリソースを振り向けて、事業部・会社全体の売上・利益の拡大を図ることはできないか。プロジェクトチームの一員として、チーム員の仕事に適切な数値目標を設定し、その達成をサポートすることによって無駄を減らし、目標達成を推進する。たとえば、競合を考えるといくらで売るべき、品質を考えると原価はいくらかかるなど、プロジェクトの最初の段階では、両者がかみ合わないケースが多い。そのギャップを埋めながら、最終的に目標売上と利益を達成できるプロジェクトに導く。
どの企業でも行われている活動ではあるが、そこにファイナンスの人がいると、事業部の優先事項にあわせつつも、全社視点で正しい財務判断ができる。損益を計算するだけの事業部の管理会計の仕事であれば、ファイナンス人材でなくてもできるようには見えるが、管理会計と財務会計は、全社合算すれば一致するため、両方の知識を持つ人材がさらに事業を理解してサポートできれば、必ず業績改善に貢献できるはずだ。