FP&A(経営企画・経営管理)活動の成果をどう計ればいいのか?

2019年10月19日から23日に米国ボストンで開催された「AFP 2019」に参加してきました。ここで、米国におけるFP&A(Financial Planning & Analysis:経営企画・経営管理)分野の最新動向をみてきました。

AFPとはThe Association for Financial Professionalsの略称で、ファイナンス・プロフェッショナルを支援する米国の団体で、資格、継続教育、イベント等を運営しています。

ところで、米国企業のFP&A部門は通常CFOの下にあり、コーポレート部門にも、子会社・事業部・各部門(営業、マーケティング、製造等)にもそれぞれ人材を配置し、会社全体の管理会計業務を担います。ここで言う管理会計業務とは、企業・事業部・部門の業績管理と意思決定の支援であり、FP&Aは、財務会計・管理会計・コーポレートファイナンス・戦略立案と遂行・経営管理などに精通したファイナンシャル・プロフェッショナルです。日本企業の場合、社長直下に置かれている経営企画・経営管理部門がそのような機能を持つことが多いですが、そのほかにも、各事業部や部門にも企画的機能を持つものが社内に多数存在します。日本企業ではそれらの管理会計担当者が一人の担当役員の下にまとまって管理・配置されておらず、ファイナンシャル・プロフェッショナルとしてのキャリアを築いていくのは難しい状態です。

わたしはFP&A(経営企画・経営管理)分野の複数のワークショップに出席しました。FP&Aに関するワークショップのテーマは大きく二つに分けられます。

① FP&A組織の機能向上について
いかにスコアキーパーとしての機能を脱して、経営・事業のビジネスパートナーとして業績向上に貢献するべきか。FP&Aチームをどのように育成すればよいのか。さらに、FP&Aチームの貢献をいかに評価すればいいのか。

② FP&A業務を効率よく、効果的に行うための最新テクノロジーの導入についての紹介。
  長年エクセル等の計算シートを駆使して行われてきた管理会計業務が、テクノロジーの力で大きく変わろうとしている。何をどう自動化していくのか。

昨今は管理会計の業務にも、自動化、シェアードサービス化が進み、事務的作業を削減できる可能性が高くなっています。それでもまだ、多くの企業のFP&Aチームは理想的な状況には至っていません。先進事例から熱心に学ぶ姿勢が見られました。日本企業の経営企画・経営管理部門も得るものが多いと思います。

パネルディスカッション「Measuring the Success of You FP&A Team(FP&Aチームの貢献の成功をどう計るか?)」

高いパフォーマンスを創出するFP&A部門は、企業組織の業績目標の達成に大きく貢献するが、実際にはFP&A部門の貢献度をどうやって計ればいいのでしょうか? APQCという調査機関とAFPが共同して行った調査についての報告があり、それに関連したテーマでパネルディスカッションが行われました。

ファイナンス業務の中でも、経理や支払い担当などは、時間当たりの生産性や正確性など、比較的客観的に計ることのできる数値指標が作りやすい。FP&Aは、ビジネスパートナーの事業の業績向上と意思決定を支援するわけですが、売上や利益を実際に向上させるのはビジネスパートナーなので、FP&Aがどのくらいそれを支援したのかは計りにくい。
 
調査では、70%のFP&Aが、FP&A業務の効果を計っていると答え、その計り方として、数値指標としては、売上・利益予測と予算の精度、関係者の満足度、FP&Aへの評価、利益率・原価低減などのファイナンシャルゴールの達成度などを上げていました。数値にしにくい指標としては、事業部がFP&Aのアドバイスを求めているか、FP&Aが戦略的議論に呼んでもらえているか、社内での評判、役員会議等での資料に対する満足度、などで評価しているようです。

FP&A業務自体が支援であるため、評価も主観的なものにならざるを得ません。それでも、評価指標を作ることが重要で、ビジネスパートナーの意図に沿って、よい行動を誘発するような指標を作成し、定期的に見直していくことがよいとされています。

パネルからは、利益予測・予算の正確性について、完ぺきを求めるのは難しいが、常に“改善を求める”ことが重要である、まとまった業務が終わったら必ず関係者のフィードバックを取って改善に努めることもおすすめである、また、FP&Aの分析と示唆が実際にビジネスパートナーの行動を促し、意思決定をドライブして結果を出したかどうかを計ることが重要、という意見もありました。

FP&A組織がより企業の業績目標達成に貢献するためには、やるべき仕事の評価指標を設定し、きちんと評価を実行し、日々改善していく必要があります。“なりたい姿”を設定し、現状を分析し、そのGAPをいかにして埋めていくか。そもそも企業の業績目標の達成を支援すべくPDCAを回していくのがFP&Aの仕事だが、同時にFP&A組織自体の量的・質的目標を達成するようにPDCAを回していくといいでしょう。

APQCとAFPのFP&A組織の現状に関する調査報告はAFPのウェブサイトで読むことができます。(Preparing for the Next Level of Financial Planning & Analysis

今回のパネルディスカッションで取り上げられたFP&A組織の貢献度以外にも、興味深い調査結果が報告されているので、一読をお勧めします。調査対象のFP&A組織は、スコアキーパーからビジネスパートナーへの進化を進めてはいるが、まだまだ課題は多いようです。

  • FP&A組織の78%は従来の経理財務組織内にはおらず、CFOに直接レポートしている。また、4%は直接CEOにレポートしている。つまり、大半は、経営組織に直接影響を与えることができる環境にある。
  • 52%の対象者は、彼らの業務は従来からの利益予測・予算作成・報告業務だけでなく、企業組織の戦略遂行の役に立つアドバイザリー業務を含んでいると言っている。
  • しかし、対象者の75%の時間は、いまだにデータ収集や事務作業に費やされており、アドバイザリー業務には25%しか使われていない。この割合は2010年の調査とほとんど変わっていない。
  • 61%の対象者は、システムとツールが整っていないことが、業務上最も喫緊の課題であると言っている。ツールについては、従来のエクセルでの資料作成(95%)から、先進的なツールの利用への進化が始まっている。レポートの自動化(45%)やビジュアル化(37%)、クラウドの利用(37%)が進んでいるが、AIの利用はまだ始まったところである。
  • FP&Aにとってもっとも必要なスキルはデータマネジメントや、予測分析などのテクノロジースキル(55%)であり、会計・財務スキル(27%)や、ソフトスキル(18%)を上回っている。会計・財務スキルにしても、会計知識や原価・設備投資管理などの能力よりも、財務・ビジネスの予測モデリング能力の方がより求められている。ソフトスキルの中では、ビジネスパートナリングのスキルが最も求められている。

まとめとして、米国企業では、FP&A業務について、経営の現場に席を置いて貢献すること、テクノロジーを進化させて、よりアドバイザリー業務に費やす時間を増やすことが急務とされています。また、FP&Aとして伸ばすべきスキルのトップ3は、データマネジメント、ファイナンシャルモデリング、ビジネスパートナリングであるとしています。

アメリカ企業ではFP&AはCFO組織内にあるのが一般的です。よって、会計・財務スキルを備えている上で、いかに経営陣や事業部に近いところで業績向上や意思決定に貢献するかが課題となっています。一方、日本企業ではFP&A業務は経営企画部が担当しており、一般的にはCFO/経理財務組織には属さず社長に直接レポートするか、経営戦略組織に属するケースが多い。つまり日本の経営企画(FP&A)は経営に近いという面ではアメリカ企業に勝っていると言えるのでしょう。ただし、社長や役員会には近いものの、子会社・事業部には直接レポートする人員を置いていないことから、現場からは遠い場合が多いようです。米国企業のFP&Aが目指すところは、コーポレート(本社)とビジネス(事業部・子会社)の両方で経営に近いポジションで貢献することです。他の課題も含めて、日本企業の経営企画・経営管理部はこの調査からの学びを参考にしていただきたいと思います。