アメーバ経営は海外で通用するのか?

今日は、一橋大学で行われた、アメーバ学術研究会の第7回シンポジウムに出席しました。管理会計の著名な先生方や、京セラの方、京セラのコンサルティングファームの方々などが集まっています。「アメーバ経営の海外への展開~世界に広がるアメーバ経営に学ぶ~」という議題でした。

アメーバ経営は、管理会計の教科書に、「日本発の管理会計手法」の代表例として挙げられています。京セラの稲森会長が考案された、あれです。いったん破綻したJALを立て直したというものです。

京セラのコンサルティング会社、京セラコミュニケーションシステムによると、アメーバ経営は、全社員が経営に参加する仕組み「人を活かす経営手法」とあります。以下引用です。
  アメーバ経営は稲盛和夫の「会社経営とは一部の経営トップのみで行うものではなく、全社員が関わるものだとの考えに基づき、会社の組織をできるだけ細かく分割し、それぞれの組織の仕事の成果を分かりやすく示すことで全社員の経営参加を促す経営管理システムである」という考え方が貫かれています。
  経営に関わるとは、経営者だけでなく社員も自分たちの収支を管理し、利益に対してしっかり責任を負うことを意味しており、全社員が利益管理に取り組みます。
 アメーバ経営は会社組織を「アメーバ」と呼ばれる小集団組織に分け、各アメーバのリーダーが経営者のように小集団組織の経営を行います。
  アメーバを構成するリーダーとメンバーは、自部門の利益を最大化させることを目標に創意工夫を行い、日々の仕事に取り組むようになります。

この考え方を様々な会社にコンサルティングして広めているそうです。実際シンポジウムに来られていた会社の方で、アメーバ経営を導入して、会社の売上・利益が大きく上がったと言われていました。

さて、本日の議題は、「アメーバ経営は海外でも通用するか?」でした。わたしはアメリカの会社に長年勤めていたので、アメリカ企業の状況はわりとわかります。わたしの印象では、アメリカの優良企業では、すでにアメーバが目指すことはやっているので、アメーバをアメリカの優良企業に使ってもらう必要はないのかなと思いました。

アメーバ経営の利点の一つは、社員のアカウンタビリティを醸成できることです。会社を小集団に分けて利益責任を持たせる。その小集団の成績が明らかになり、その中のだれががんばってだれががんばっていないかも明らかになるそうです。 

わたしが思うに、優良な欧米企業では、すでに社員にアカウンタビリティを持たせる経営管理の仕組みができています。社員それぞれが何かの専門家であり、マトリックス組織になっています。マーケティング、営業、ファイナンス、R&D, サプライチェーンなど、それぞれの部署が全世界できちんと組織になっています。また、各人が、自分の属する地域・会社のボスと、自分の属する専門部署のボスと、両方に仕える形になっています。また、全社の戦略を個々人の活動計画に落とし込んであり、活動目標を達成すべく、報酬も設計されており、アカウンタビリティが”がちがち”に定められています。アメーバ経営をしなくても、すでに社員がアカウンタビリティを持っているのです。また、社内にアカウンタビリティを持たない、持てない社員がいたら、ほかの会社でのキャリアを考えることを示唆されるでしょう。

日本企業はアカウンタビリティがはっきりしない文化を持つようです。アカウンタビリティをしっかり持たせるために、アメーバ経営は有効なのでしょう。また、終身雇用で流動性の少ない労働環境では、無理やりでも全員にアカウンタビリティを持たせなければならない。”できない人はいらない”というわけにはいかないのでしょう。

わたしは、日本企業の業績向上のために、前述の欧米の優良企業のような専門家のマトリックス組織構築をお勧めしています。また、CFO組織の中にFP&A組織を置き、優秀なFP&A人材を育てて各部門、各事業部に配置することをお勧めしています。これにより、個人のアカウンタビリティがはっきりした組織が作られます。

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本日アメーバ経営のお話しを聞き、アメーバ経営を取り入れることも、わたしが推奨する欧米優良企業の組織体系を取り入れることと似たような効果をもたらすのだということがわかりました。

アメーバ経営を行うには、小集団の損益管理を行う経営管理部門の働きが必要だそうです。会社の中に架空の小集団を作ってそれぞれに損益管理をさせるのだから、手間が大変です。わたしに言わせると。。。その労力を、”管理”ではなく、”現場のビジネスパートナー”として、業績向上に直接使えないかなと思います。

本日思いかけず、懇親会でわたしの意見を話す機会をいただき、上記のようなことをお話ししました。「もともとアカウンタビリティがはっきりしない日本企業では、アメーバ経営を取り入れることが効果的なのでしょう。しかし、欧米の優良企業では、別のやり方(専門家集団のマトリックス組織とコントローラー制度)で、すでに社員がアカウンタビリティを持つしくみができていますよ」。かならずしもアメーバ経営だけが社員にアカウンタビリティを持たせる方法ではないのです。

日本企業のいいところ、欧米企業のいいところ、両方を知って”いいとこどり”をするのがいいのでしょうね。

欧米の優良企業ではこうしていますよ、というご紹介をいろいろしていますが、ご紹介をしているだけで、日本企業の業績が向上するわけではありません。と思い、日本企業の実情も理解したうえで、日本企業に合った改善方法をお勧めできるようになりたいと思って研究をしております。

いずれにしろ、今日は大変勉強になりました。アメーバ経営についてはまだ学び始めたばかりです。今後も勉強していきたいと思います。